カスタマーハラスメント防止措置義務化へ(会社の知恵袋2025年3月)

法案記事等
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律案の概要(令和7年3月11日)https://www.mhlw.go.jp/content/001438881.pdf
企業にカスハラ対策義務(日経2025年3月12日朝刊)改正法案を閣議決定
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO87277630R10C25A3EP0000/
政府は11日、顧客による著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策を企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を閣議決定した。企業に対応方針の明確化や相談窓口の設置などを求めるが実施の徹底には課題も残る。
[日経社説2025.3.22]強力なカスハラ防止策は企業の責務だ
顧客や取引先による著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)への対策を企業に義務付ける法改正案を政府が閣議決定した。カスハラへの対応方針を明確にし、相談窓口を設置することなどを求める。今国会での成立をめざし、公布後1年半以内に施行となる。カスハラは働く人の心身を害し人材確保に足かせとなる。現場が不当な要望への対応に追われれば、本来の業務にも支障をきたす。企業は法の施行を待たず、率先して防止策に取り組むべきだ。
(中略)カスハラについては正当なクレームとの線引きの難しさを指摘する声がある。東京都は都内の企業などに対策を求める防止条例を4月1日から施行する。どういう行為がカスハラに該当するのか、イラストや図解入りで解説したガイドラインを作り、ネットでも公表した。他の地域の企業や自治体にも参考になろう。https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK213W30R20C25A3000000/
カスハラ対策義務化 法改正案、国会提出 全企業対象(毎日2025年3月12日朝刊)一部改変https://mainichi.jp/articles/20250312/ddm/008/020/112000c
政府は11日、顧客や取引先が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を全企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を閣議決定し、国会に提出した。就職活動中の学生へのセクハラ防止策も義務化する。自社の対応方針を明確にすることや従業員や学生からの相談を受ける体制整備を求める。カスハラ被害に遭った際のマニュアル作成などを想定する。
全企業にカスハラ、就活セクハラの防止を義務化 法改正案を閣議決定(産経2025年3月12日)一部改変 https://www.sankei.com/article/20250311-O73XQTQUN5PD5INZZOAKCYOCDI/
政府は11日、顧客や取引先が理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)防止を全企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を閣議決定した。就職活動中の学生へのセクハラ防止策も義務化する。企業は国が示す指針に基づいて対策を講じ、従業員や学生を守る取り組みを進める。自社の対応方針を明確にすることや、従業員や学生からの相談を受ける体制整備を求める。カスハラでは被害に遭った際のマニュアル作成、就活セクハラでは社員と学生との面談時のルール設定などを想定している。対策を怠った企業に対しては国が指導・勧告でき、従わない場合は企業名を公表できるようにする。自治体も対象にしており、対策を義務付けられる。
従業員と企業を守り、お客様に向き合う対応、概要を無料で説明します。
「カスタマーハラスメント防止措置義務化へ 従業員と企業を守り、お客様に向き合う」『会社の知恵袋』2025.3月号掲載(下掲誌面一部略有、紙幅少なく表現不足等あります)2025年法改正予定事項(女活/労推法)https://koen-sr.tokyo/2025womensempowerment/
カスハラの現状
カスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置の義務化に進む中、企業と従業員を守りつつ顧客対応の質を向上させるための具体的な対策と法的背景を解説します。
カスハラは顧客からの著しい迷惑行為であり、労働者の心身に悪影響を及ぼす可能性があります。東京都では2024年にカスハラ防止条例が制定され、2025年に施行される予定です。
企業はカスハラ防止規程や対応マニュアルを策定し、従業員への教育や研修を実施することが求められます。
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カスハラは顧客(Costomer)等からの著しい迷惑行為です。「カスハラでは」と感じた経験のある読者もいると思います。9人に1人(10.8%)の労働者が過去3年間に勤務先でカスハラを受けており(令和5年度厚生労働省『職場のハラスメントに関する実態調査』)、現在は更に深刻でしょう。
同調査で、カスハラはハラスメントの類型中、パワハラの19.3%に次いで、セクハラの6.3%より多いのに、取組を行っていないと答えた企業は半数以上の55.8%でした。ただ、カスハラは個人から自社店員への(BtoC)又は取引企業から自社担当への(BtoB)図式でも、事業者は直面するのです。
職場のハラスメントのうち、パワハラ、セクハラ、妊娠出産・育児介護ハラスメント(マタハラ等)は、それぞれ法律で防止措置が企業に義務付けられています。その内容は、厚生労働省の指針において、方針の具体化と周知啓発(ハラスメント禁止規定、研修等)、相談体制の整備(窓口、責任主体等)及び発生時の対応(事実確認、事後対応、再発防止等)などが提示されています。
対してカスハラは、現行法で防止措置義務付けがありません。ただ、同省はパワハラ防止指針中「カスハラについても相談先を定め、適切に対応できる枠組みを整えることが望ましい」として2022年に『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』を作成し、一部企業は方針策定済です。
もっとも、カスハラの防止措置以前に、使用者は労働者の安全配慮義務を負います(労働契約法5条。公務員は同法の対象外ですが、安全配慮義務は当然に適用されます)。カスハラに対応せず労働者の心身に悪影響(身体被害やメンタルヘルス不全を伴う休退職の発生なども想定)があれば、労災認定、使用者の上記義務違反による損害賠償責任のリスク、顧客の利益を損ねる、経営に支障を来すなどの状況から、カスハラ防止立法の動きが加速しています。
条例の制定(東京都)
カスハラ防止を課題と捉えている地方では、国より先に条例化が進み、東京都は2024年10月に『東京都カスタマー・ハラスメント防止条例』を制定し、同年末、2025年4月施行のため指針を公表しました。
条例では「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない」と国の法令にない表現で、カスハラの禁止を明言しています。「何人も」は、カスハラの行為主体となり得る全ての人を指し、都民か否かを問わず、企業間取引での法人の意思を背景としたカスハラも含まれ、「あらゆる場」は、店舗や事業所の窓口、電話やインターネットも含まれます。
カスハラは、①顧客等から就業者に対し②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって③就業環境を害するもので、その要素を全て満たす必要があるもの、と定義されています。
また、「事業者」を都内で事業(非営利活動を含む)を行う法人その他の団体(国の機関を含む)又個人の事業者(ボランティアやフリーランス、都外事業者も対象)、「就業者」を都内で業務に従事する者(事業者の事業に関し、都外でその業務に従事する者、都外在住の都内事業従事者・テレワーカーも対象)、「顧客等」を顧客(就業者から商品・サービスの提供を受ける者)又は就業者業務の密接な関係者、「著しい迷惑行為」を暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他不当な行為、と定めました。
他方、罰則は設けず、「社会全体でカスハラの防止を図るとともに、その防止にあたっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重しなければならない」の基本理念の下、事業者のみに責務を課すのでなく、顧客等や就業者にもカスハラ防止の取組を求めました。即ち、「顧客等は就業者に対する言動に必要な注意を払う」「就業者は顧客等の権利を尊重しカスハラ防止に資する言動をとる」「事業者はカスハラ防止施策に主体的かつ積極的に取り組む」の努力義務です。
なお、顧客等の権利を不当に侵害しない規定、国法制や社会変化による条例見直しの附則もあるほか、業務の性質上、カスハラに遭遇しやすい公務に関する対応内容は、指針で示しています。その上で、カスハラは上記①②③の要素全て満たす必要ながら、著しい迷惑行為が違法であれば、条例にかかわらず、刑法による処罰や民法上の損害賠償請求がされる可能性もあります。
東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」スライド版P7より

立法の動き(国)
国では2024年末、労働政策審議会が、2025年に労働施策総合推進法改正により、カスハラ防止措置を企業など事業主に義務付けるよう、厚生労働大臣に建議しました。2026年以降施行の見込みです。とりわけ、防止措置義務を講じるハラスメント以外も職場のハラスメントを行ってはならないと定め、社会規範意識を醸成する取組は、「○○ハラ」乱造防止のためにも重要です。嫌がらせに留らず、人権に重きを置くILO条約(未批准)に近づけたい動きとも捉えられます。
カスハラの定義は、ⅰ顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うことⅱ社会通念上相当な範囲を超えた言動であることⅲ労働者の就業環境が害されること、いずれの要素も満たすものとする一方、正当なクレームはカスハラに当たらず、対策は消費者の権利を阻害しない等を指針化します。なお、カスハラ以外では、就活等ハラスメントをセクハラ指針・パワハラ指針で、自爆営業をパワハラ指針で明確化し、防止措置義務の対象に加えます。
カスハラ対策の取組
発生前の対策
事業者トップは、カスハラ対策に取り組む明確な姿勢を基本方針で示します。カスハラ防止規程や対応マニュアルを策定し、本社・本部との連携が必要な場合の報告・相談、指示・助言や、顧客等からの迷惑行為や悪質クレーム等に具体的に対応するための就業者への教育や研修の実施、カスハラ発生を想定した現場での初期対応について、方法・手順を整備しておきます。
また、就業者がカスハラを行わない明確な方針を周知するほか、カスハラを受けた就業者がプライバシー保護の下で相談できる対応窓口の設置や、相談したことにより就業者が不利益を受けないことも必要です。
発生時の対応
カスハラと思われる事案が発生した場合、事実関係の正確な確認と事案への対応を行い、カスハラを受けた就業者の心身・法的安全を確保します。事業者として、顧客等への法的な対応を要する場合もあり得ます。再発防止として、規程・マニュアルを含む見直しや改善を継続的に行います。
カスハラの防止目的
カスハラの代表的行為類型として、「顧客等の要求内容が妥当性を欠く(全く欠陥がない商品を新しい商品に交換するよう要求・全く関係のない私物の故障に賠償を要求)」「要求内容の妥当性にかかわらず要求を実現する手段・態様が違法又は社会通念上不相当(謝罪の手段として土下座を強要・顔や名札を撮影した画像を本人の許諾なくSNSで公開)」「要求内容の妥当性に照らして要求を実現する手段・態様が社会通念上不相当(著しく高額や入手の困難な商品との交換を要求・正当な理由なく上司や事業者名の謝罪文を要求)」があります。例えば、就業者間のセクハラやパワハラを顧客等が就業者に行えばカスハラで許されません。逆に、要求の内容や手段・態様が妥当なら、消費者の権利として尊重されます。
カスハラの防止目的は、防止そのものと正当な要求・クレームの明確化でもあり、従業員や企業を守ると同時に、お客様に真摯に向き合う対応も求められています。
---本編は終了
お客様は神様?考
『お客様は神様です』は、往年の浪曲師・歌手の三波春夫氏(1923-2001、1970大阪万博・世界の国からこんにちは)が、来場してお金をいただき披露する唄の聴衆に対する感謝を表現したもので、電波に乗って広がったと理解します。よって、どの商品・サービスのお客様も神様、は該当しないし、55年後の万博でも残る風潮の横溢を故人は望まないでしょう。
三波春夫オフィシャルサイト「お客様は神様です」についてhttps://www.minamiharuo.jp/profile/index2.html
参照


厚生労働省 女性活躍の更なる推進・職場におけるハラスメント防止対策の強化について(概要)
https://www.mhlw.go.jp/content/001366047.pdf
東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」を作成https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2025/03/04/10.html
東京都職員に対するカスタマー・ハラスメントの防止に関する基本方針を策定https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2025/02/18/04.html
東京都「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin/index.html
厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
日本経済新聞「カスハラ防止条例、25年度から続々 実効性へ罰則検討も」2024年12月29日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC127GW0S4A211C2000000
日本経済新聞「東京都の2025年度予算案、都税収入6.9兆円台 過去最大」2025年1月10日抜粋https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC095YN0Z00C25A1000000
4月には都のカスタマー・ハラスメント防止条例が施行される。25年度予算案にはカスハラ対策の新規事業として49億円を計上する。防止対策の手引を作成した中小企業を対象に録音・録画などの整備費用として40万円を支援する。業界団体には研修費などで最大100万円を補助する。
東京都で2025年度に実施される「カスタマーハラスメント防止対策推進事業」は、都内中小企業と各種業界団体に向けた奨励金の支給のほか、以下の取組が予定されています。
普及啓発として、ウェブサイトやポスター・リーフレットの活用や啓発グッズの配布、動画広告による情報発信等により条例の理念の普及啓発等を実施。相談窓口として、事業者、従業員だけでなく、顧客等も対象にカスハラ全般に対応できる総合相談窓口を開設。団体向けセミナー・コンサルとして業界マニュアルの作成支援、カスハラ課題が深刻な業種を中心にセミナー等実施。
企業向け奨励金の対象となるのは、従業員300人以下の都内中小企業等です。奨励金の受給には以下2つの取組を講じる必要があります。①カスハラ防止対策に関する手引きの作成・提出
自社のカスハラ防止対策マニュアル作成です。カスハラ防止対策も、どのようなハラスメントが想定され、どのような体制で対応するかは企業ごとに異なります。カスハラは個人や現場のレベルでなく組織で対応すべき問題で、企業として統一的な手引きを用意して備えることが不可欠。
どの業界も共通する基本的なカスハラ防止対策のためのマニュアル・ガイドラインは、厚生労働省や東京都が作成・公開しています。今後は各業界団体で特有のカスハラに対応するためのマニュアルも作られ、中小企業等はこれらを元に、カスハラ防止対策に関する手引きを作成します。
②カスハラ防止対策の実践(いずれか1つを実施)
奨励金受給のためには、①に加え、「録音・録画環境の整備」「AIを活用したシステム等の導入」「外部人材の活用」のうち、いずれか1つのカスハラ防止対策に取り組む必要があります。
(録音・録画環境の整備)
「録音・録画」は、対応内容の記録や情報共有の観点から、クレームの初期対応において有効な手立てとなります。やり取りの録音・録画は、就業者と顧客等の双方にとって重要な証拠となる他、あらかじめ録音・録画する旨を伝えることにより、双方の不適切な言動の抑止、カスハラの未然防止が期待され、今後同様の事態が生じた際の参考事例として役立てることもできます。
(AIを活用したシステム等の導入)
企業経営のあらゆる側面においてAI活用が進む今日、カスハラ対策もAIが有効とされます。感情認識技術を活用したモニタリングシステムや、データ分析を通じたカスハラ予防策の策定、怒鳴り声や感情的な音声の転換、カスハラ研修への活用等が挙げられます。カスハラ対応全てをAIに任せず、最大限有効に活用するには常にAIに学習させるなどの取組が必要となります。
(外部人材の活用)
カスハラ対策には外部の専門家の活用も有効です。企業におけるカスハラ対応は、ひとつ誤れば状況悪化の引き金となりかねません。また、現場における対応のまずさが企業イメージの失墜を招くこともありますので、専門家と手を携えて慎重に進めていくべきとの見方ができます。カスハラ防止対策の検討やマニュアルの策定、日頃のカスハラ研修実施、カスハラが発生した際の対応、その他法的問題に発展した際の解決等、外部人材の活用が望まれる場面は多岐に渡ります。
今年夏季前後、以前の上司が役員の研修団体向けに、カスハラ防止監修・研修講師の予定です。